Lumenis Pulse 120H with Moses Technologyはこう使う!
レーザー特性を考慮したTUL治療

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臨床編 尿管結石・腎結石

Lumenis Pulse 120H with Moses Technology(以下MOSES 120)を使いこなすうえで特徴的なレーザーモードならではの破砕テクニックについて、加藤祐司先生に「基礎編①」「基礎編②」で解説していただいた。「臨床編」の本稿では、腎・尿管結石に対するMOSES 120を使用した経尿道的尿路結石除去術(TUL)について解説していただく。また、レーザーの物理特性に関しては杉本康弘先生に監修していただいた。
- 報告 -
坂泌尿器科病院
診療部長・泌尿器科長
尿路結石治療センター長
加藤 祐司 先生
    - 監修 -
金沢大学
工学部 機械工学科 教授
杉本 康弘 先生
 

A) 尿管結石に対する治療

尿管結石に対するTULではFragmentingを基本とする。尿管結石は腎結石と比較してボリュームが小さいことが多く、ブロック状に“ジャストサイズ”にFragmentingして抽石したほうが短時間で効率的にstone freeとなりやすいためである。尿管内はスペースが狭いことが多く、DustingとPopcorningでの治療は、レーザー先端のコントロールが難しく、尿管壁への誤照射とレーザーによる熱に起因する損傷が懸念されるため、原則として施行しない。

嵌頓結石

嵌頓している尿管結石の治療時に最も重要かつ難しい点は、癒着している部分をレーザーで損傷しないようにしながら、結石の“根”を残さないことである。レーザーによる熱損傷と結石の残存は術後尿管狭窄形成のリスクファクターと考えており、回避しなければならない。

MOSES 120でのFragmentingではコンタクトモード(MC)とShort Pulse(SP)を使用するが、嵌頓結石では基本的にSPを使い、MCは限定的に使う。MCはピンポイントでレーザーを当てることができるため、嵌頓部の周囲組織にほとんど影響を与えず“すれすれ”に砕石が可能である。

しかし、このMCの“すれすれ”に壊せる能力がかえって仇となり、結石の“根”を残しやすい。小さくし過ぎた“根”はバスケットや内視鏡が引っかからなくなり、除去が困難となる。取り除くためには“根”の周辺の尿管壁にレーザーを当てざるを得ず、この際に尿管壁にダメージを与えてしまう。

“根”を残さないためには、バスケットや内視鏡による剥離を多用する。剥離にはバスケットや内視鏡が引っかかる“取っかかり”が必要であり、結石を小さくし過ぎずに大きく壊すためにSPを使うのである(動画1)。

具体的な方法として、結石介在部の遠位で浮腫やポリープのために結石がわずかにしか見えない場合には、まずMCでピンポイントに尿管壁の影響を回避しながらFragmentingする。これにより結石に正対ができるスペースが作成されたら、SPで結石の中央をFragmentingする。

SPの影響は広範囲に及ぶため、レーザーを当てた部分以外にも“クラック”が発生し、大きく壊れていく。トンネルを作成するように結石中央を突き進むような壊し方よりも、介在部の手前から順に砕石して除去した方がよい。“トンネル法”の欠点として、①結石の中央を壊しているつもりでも、知らず知らずに尿管壁に寄ってしまうことがある、②治療範囲が狭くなるため砕石がやりにくい、③トンネル状に残した結石を尿管壁から剥離するのに難渋するーが挙げられる。

SPでFragmentingすると大きめの砕石片が次第に介在部に溜まってくる。これらは視野の妨げになるだけでなく、シースから軟性鏡が抜けなくなる原因となるため、放置せずに適宜抽 石したほうがよい。壁に癒着している砕石片があれば“ 取っかかり”を利用してバスケットや内視鏡で剥離して除去する。

SPを使用する際の注意点としては、尿管壁に近い所で使用すると、壁に直接当たっていなくてもレーザーのパワーが及ぶために脆弱な介在部の粘膜から出血することがある。尿管壁に近いところを狙う場合には影響の少ないMCを用いるが、前述した理由から多用は避けるべきである。

根が残ってしまい、剥離で除去できず、角度的に結石に正対できない場合には、結石近傍の尿管壁をMCで局所的に当て、結石を浮かび上がらせてから剥離して結石だけを除去するか、 結石周囲の組織と結石を一塊にしてレーザーで剥離する。ただし、術後狭窄発生を予防するために、広範囲(尿管壁の半周以上、複数部位)にレーザーを当てないように留意する。

非嵌頓結石

非嵌頓の尿管結石はRetropulsionしやすいため、レーザー先端で結石を押さえつつ砕石する。MCは狙った結石が動かないうちに押さえやすいので重宝する。押さえつけなが らMCを使用する際には結石に穴が開きやすく、穴の先にある尿管壁にレーザーが当たらないように注意する。MC/SP Fragmentingを効率的に使い分けることで抽石にジャストの 大きさに壊すことが可能である。

尿管結石治療時のレーザーの条件設定では、むやみに高いジュールとヘルツは使用せず、結石が壊れるギリギリのジュール(MC/SPであれば0.4~0.5J)と5~6Hzから開始する。硬い結石であってもSPで1.0Jを越えることはTULではまれである。

動画1 尿管嵌頓結石の砕石のポイント
嵌頓結石では基本的にSP Fragmentingを使用。“ 根”を残さないためにバスケットや内視鏡で剥離する。剥離にはバスケットや内視鏡が引っかかる“取っかかり”が必要であり、結石を大きく壊すためにSPを使う。
レーザ設定:Left: MC 0.5J*5Hz; Right: SP 0.5J*5Hz
 
 

B) 腎結石に対する治療

腎結石に対する治療では結石のサイズと抽石可能かどうかで砕石方法を選択する。

大きな腎結石(15~20mm)

Retropulsionしにくい15~20mm超の大きい結石では、まずMC Dustingを行う。このサイズをFragmentingだけで対応しようとすると、大小多数のブロック状の砕石片が作成され、大きな砕石片は抽石可能な大きさまでさらに小さく砕石する必要がある。作成されたこれらの砕石片をstone freeにするためには抽石の技術と相応の時間を要する。

Dustingで結石が小さくなるとRetropulsionしやすくなり、Focusingが難しくなる。また結石が小さいとdustにならずに大きく壊れてしまうことが多くなるため、ジュールとヘルツを抑え気味にしてDustingを継続する。すべての結石をdustにすることは困難であり、必ずブロック状の砕石片が残る。内視鏡のRe-entryが問題なく、抽石が可能なら、MC/SP Fragmentingでちょうどよい大きさに壊して抽石する。Re-entryが困難な場合はMC/SP Fragmentingで砕石片を1個ずつ、可能な限り小さく壊す。

小さな砕石片をさらに壊すときはMCのほうがRetropulsionは少なく、効率がよい。その後、MD Popcorningで砂状になるまでさらに砕石する。Popcorningの最中に砂の中に大きな砕石片を見つけたらMC Fragmentingで砕石する(動画2)。ピュアな尿酸結石であればこの方法で術後の経口的尿アルカリ化で、砂すら残らず溶解される。

小さな腎結石(10mm以下)

小さな腎結石に対するDustingはRetropulsionしやすく、周囲組織へのミスショットも起こりやすい。Re-entryが問題なく、抽石が可能ならばMC/SP Fragmenting+抽石により短時間でstone freeにしやすい。抽石ができないときには前述したように、可能な限り小さくFragmentingした後にMD Popcorningを行う。

下腎杯結石

下腎杯結石は上腎杯や中腎杯にRepositionして治療したほうがよい。理由は、①上腎杯か中腎杯で治療を行ったほうが術後に細かな砕石片が排出されやすい、②下腎杯と比較して砕石や抽石時の軟性鏡への負荷を軽減できるからである。下腎杯結石が大きくRepositionできない場合は、小さくし過ぎずに、Repositionが可能な大きさまでMC/SP Fragmentingで壊すか、スペースに余裕があればMC Dustingでボリュームを縮小させる。

腎杯の陰に隠れた結石

砕石片が腎杯の陰に隠れてしまってレーザーが正対できないことがある。このようなときはSPを用い、結石に当てない状態で“空打ち”すると結石が移動して正対することが可能となる。この“空打ち効果”は同じジュールで比較した場合、バブルが最も大きくパルス強度が高いSPで顕著であり、MCでは照射方向に衝撃波が進むため、正対できない場合には照射しないほうがよい。

動画2 大きな腎結石の砕石のポイント
Retropulsionしにくい大きい結石では、まずMC Dustingを行う。Fragmentingだけで対応しようとすると、大小多数のブロック状の砕石片が作成され、大きな砕石片は抽石可能な大きさまでさらに小さく砕石する必要がある。
レーザ設定:MC dusting: 0.5-0.4J*40Hz; SP/MC fragmenting: 0.5J*5Hz; MD popcorning: 0.5J*50Hz
 
 

C) Long Pulse(LP)は有効か?

LPはどのようなときに使用したらよいのか。一般的にLPはRetropulsionを起こしにくいと言われている。しかし、実際にはMCよりもRetropulsionしやすく、同じジュールのMCやSPよりもパワーは弱い。

構造的にもろい結石では感じないが、硬い結石の場合にはLPのパワーの弱さが感じられ、SPより0.1~0.2J増のパワーが必要となる。しかし、ジュールを上げてしまうとRetropulsionしやすくなる。結石を壊すという視点から考えると、LPにはMCやSPのような特徴的な“とがった”性質はなく、MCとSPを使用する限り結石治療では出番は少ないと言わざるを得ない。

一方、LPは他のモードと比較して止血効果が強いことが知られている。これは他のモードよりも熱が発生しやすいことと関連している可能性がある。実際に経尿道的ホルミウムレーザー前 立腺核出術(HoLEP)では腺腫の剥離にはSPが有用であるが、止血にSPを用いると血管周囲の組織に広範に影響し、組織のダメージが発生して傷口が広がりやすい。LPを使用すると傷口が広がることなく、血管のみをピンポイントに効果的に止血が可能である(動画3)。

TULでは腎杯内結石に対して腎杯切開をした際の切り口の止血や特発性腎出血に対する止血術などでLPは有用である。また、まだ使用経験はないものの、PNLのトラクトからの出血 に対してもLPは有効かもしれないと考えている。

動画3 HoLEPにおけるLPによる止血
LPは他のモードと比較して止血効果が強いことが知られている。止血にLPを使用すると傷口が広がることなく、血管のみをピンポイントに効果的に止血が可能。
レーザ設定:LP 1.0J*40Hz
 
 
 
 

尿管など狭小空間内でのLPの使用は避けるべき

基礎編①」で説明したように、レーザーコンソールで作られたレーザーエネルギー(J: ジュール)は、ファイバーを伝ってファイバー先端で灌流液に吸収され、気泡が形成・崩壊して衝撃波を発生させる。これはレーザーエネルギーが、蒸気泡形成(熱)に変換されていることを意味する。

形成される気泡内には少なくとも100℃以上の水蒸気が存在し、その周りの液相においても温度の上昇が見込まれる。そこで簡易的に周辺の温度変化を計測したところ、LPにおいては他のモードに比べ周辺温度はより高温に達していることがわかった。

つまり、同じエネルギーを供給していながら気泡が小さいLPは熱に変換されるエネルギーが大きく、したがって、尿管などの狭小領域内での結石破砕目的のLPの使用は避けるべきと考えられる。

 
 

D) 最後に

結石治療の最終目標はstone freeである。その目標に向かって、手術時間をなるべく短く、できれば単回の治療で、治療終了までの期間が短くなる手術を心掛けなければならない。

そのために結石の性状(大きさ、個数、硬さ、構造、成分)、尿路の 状態(嵌頓、部位、狭窄・屈曲)、患者の状態(易感染性、ADL)、抽石の可否、シース使用の有無、手技の熟練度などを総合的に鑑み、術中に目指すべきゴールを設定する。そのゴールに到達するために最適な砕石方法を選択する。MOSES 120ならば複数のレーザーモードの選択と細かな条件設定が可能であり、 最適な砕石方法の選択が可能である。

著者の術者としての実感であるが、MOSES 120に慣れてしまうと他のレーザー装置で治療するときに自分の手技が下手になってしまったような感覚を抱く。換言するとこれはMOSES 120のテクノロジーが自分の手技(テクニック)の一部を補完しており、著者の結石治療において既に欠くことのできない重要な機器のひとつとなっていることを意味している。

MOSES 120を使用することで、結石治療のビギナーからエキスパートに至るまでの幅広い術者において治療のレベルを数段上げることが可能であると考える。

 
 
 

破砕・止血テクニック動画一覧

尿管嵌頓結石の砕石のポイント
嵌頓結石では基本的にSP Fragmentingを使用。“ 根”を残さないためにバスケットや内視鏡で剥離する。剥離にはバスケットや内視鏡が引っかかる“取っかかり”が必要であり、結石を大きく壊すためにSPを使う。
レーザ設定:Left: MC 0.5J*5Hz; Right: SP 0.5J*5Hz

 
大きな腎結石の砕石のポイント
Retropulsionしにくい大きい結石では、まずMC Dustingを行う。Fragmentingだけで対応しようとすると、大小多数のブロック状の砕石片が作成され、大きな砕石片は抽石可能な大きさまでさらに小さく砕石する必要がある。
レーザ設定:MC dusting: 0.5-0.4J*40Hz; SP/MC fragmenting: 0.5J*5Hz; MD popcorning: 0.5J*50Hz
 
HoLEPにおけるLPによる止血
LPは他のモードと比較して止血効果が強いことが知られている。止血にLPを使用すると傷口が広がることなく、血管のみをピンポイントに効果的に止血が可能。
レーザ設定:LP 1.0J*40Hz




 

 
 
 
本資料は製品の効果および性能等の一部のみを強調して取りまとめたものではなく、製品の適正使用を促すためのものです
※径表示換算目安:1mm=3French=0.0394inches

 販売名:Lumenis パルス 120H
医療機器承認番号:22800BZX00150000