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アーティクルサマリー

BSCCI vol.5

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急性冠症候群、心臓突然死の原因になりうる
Calcified Noduleの病理学的特徴

 

東海大学医学部付属病院
循環器内科

鳥居 翔 先生

背景

 心疾患による死亡は北米を含む多くの国で死因の第一位であり、その中でも急性冠症候群は特に35歳以上において、心臓突然死の最も重要な原因である。

 CVPathのVirmani 医師は、2000年に急性冠症候群病理学的な特徴として、3つの病態、Plaque Rupture、PlaqueErosion、Calcified Noduleがある事を発表した。PlaqueRuptureとErosionに関しては、比較的頻度が高い事から、病理学的な特徴だけでなく、IVUSやOCT等の所見、適切なステント留置を含めた治療方針についても過去に複数報告されている。しかし、Calcified Noduleについては、CaseReportレベル、もしくはIVUS/OCTの画像的特徴が発表されているのみで、今までその病理学的特徴を検討した研究は存在せず、未解明な部分が多いのが現状であった。筆者は2016年から2019年までの約3年間CVPathに留学し、9000例以上の冠動脈の検体の中からCalcified Noduleを含む検体を抽出し、それを検討する機会があったのでここで報告する。

方法

 1994年から2020年まで、米国メリーランド州にある監察医から、心臓についての詳細な診断目的でCVPathInstituteにコンサルトとなった1200例の心臓突然死症例のうち、冠動脈内に血栓を認めた患者の中で、Calcified Noduleと診断されたLesionは26個であった(1例はLCXとRCAの2枝にCalcified Noduleを認めていた)。その症例を可能な限り患者情報を収集し、レントゲン、撮影可能な症例はMicroCT を撮影した上で、病理学的にCalcified Noduleを認めた患者の冠動脈3枝を詳細に検討した。特筆すべきなのは責任血管から319個、非責任血管から合計484個、合計で803個の全てのセクションにおいて、血管径、石灰化している部位の面積、角度などを測定した事である。

 Calcified Nodule の病理学的な定義としては、“a lesion with fibrous cap disruption from eruptivecalcific nodules associated with an occlusive ornonocclusive platelet/fibrin thrombus”とされている。要するに、石灰化Noduleが線維性被膜を突き破って血管内に突出し、血栓が付着したもの、とされている。ここで注意しておかなくてはならないのは、“病理学的な定義”としては、線維性被膜を突き破っているか、血栓が付着しているかがCalcified NoduleとNodular Calcificationを鑑別する重要な因子であるという事である。OCTやIVUSなどの血管内イメージングデバイスでは、上記2つの特徴を見極める事は非常に難しく、だからこそ血栓の付着は血管内イメージングデバイスの必須条件ではない事は理解しておく必要がある。

結果および考察:Calcified Noduleの病理所見

 患者背景では、患者の年齢の平均は70歳、ほとんどの患者で糖尿病やCKDを合併していた。また生体腎移植が盛んな米国では非常に珍しい事であるが、透析患者が3例いた。Calcified Noduleは、右冠動脈のmidに多く、また当然ではあるが全ての患者においてレントゲンで確認できる石灰化の程度は高度であった。

 病理学的な特徴としては、前述の定義の通りではあったが、今回の検討で明らかになった特徴として、Plaque Ruptureでよく認められるような血管内腔を閉塞させるような大量の血栓の付着はほとんど認められず、突出した石灰化に少量付着する血栓が大半を占めていた事が挙げられる。それはすなわち、STが上昇するような貫壁性の梗塞というよりは、少量の血栓が末梢に飛んで心筋逸脱酵素が上昇するような、NSTEMIの病態で来院する患者がCalcified Noduleでは多い事を臨床的にはよく経験するが、その実臨床での所見を裏付けるような結果であった。これは筆者らの私見ではあるが、脂質成分よりも石灰化の成分の方が、より血栓性が高い事から、Plaque Ruptureでは責任病変で完全閉塞しSTEMIで発症、Calcified NoduleではNSTEMIで発症する事が多いと言う印象があり、今後の臨床での解明が待たれる。

 それではCalcified Noduleを起こした責任血管(Culpritvessels)と、起こしていない非責任血管(Non-Culpritvessels)では違いがあるのか。その違いを浮き彫りにすべく、責任血管と非責任血管での血管性状を比較したところ、責任血管の方がよりpositive remodelingを起こしており、プラーク量、石灰化量ともに有意に多い事が分かった。また、Picosiriusredと言うCollagenを染色するような特殊な染色法で染色した場合、Pico-sirius red染色で陽性になる石灰化の割合が、責任血管の方が非責任血管よりも有意に多い事が判明した(Figure 1)。

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高血圧、糖尿病、冠状動脈疾患、うっ血性心不全の既往歴のある79歳の女性。(A)レントゲン写真:RCAおよびLADの近位から中央部分および左前下行枝への重度の石灰化を示している。(B)から(F)対応する組織切片の部位を表している。D′′はDと同じ画像(Movat Pentachrome染色画像)、EはCalcied Noduleの原因病変を示し、内側の破裂はDで確認される。B′からF′は、偏光下でのPico-sirius red 染色画像。

結果および考察:病理から見たCalcified Noduleの特徴と発生機序

 ここで少し脱線するが、石灰化の成り立ちについて現時点で石灰化を研究する研究者の中で、ある程度コンセンサスを得られている仮説について紹介したい。その仮説では、石灰化は1. 血管平滑筋細胞がアポトーシスを起こしたもの、そして、2. 脂質成分が石灰化したもの、以上合計2つの全く異なった機序から形成されると考えられている。我々の考えでは、脂質成分が石灰化したものに関しては、時間を経るごとに脂質成分が少しずつ硬くなってCollagenが中に入り込む事で脂質成分の石灰化が完了すると考えている。すなわち、Pico-siriusred染色を用いて染色すれば、ある程度石灰化の硬さが病理学的に鑑別できるのではないかと考えている。ここで今回のCalcified Noduleの責任血管と非責任血管を比べてみると、Pico-sirius red染色で染色される、すなわちCollagenが入り込んで比較的硬いと考えられる部分が、責任血管を有する血管において有意に少なかった事から、Calcified Noduleが比較的柔らかい石灰化の部分が破れてしまって血管内腔に飛び出したと言う機序が考えられる。

 それでは、責任血管の中で、実際にCalcified Noduleを起こした責任部位と非責任部位はどのように違うのであろうか。責任血管に関しては、3mmごとにより細かく冠動脈を輪切りにして、責任部位とその前後、proximalとdistal の非責任部位の部分の違いを検討した。結果としては、責任部位は、その前後の非責任部位と比べてPico-sirius red染色陽性の、硬い石灰化の割合が有意に少ないと言う結果であった(Figure 2)。またこの検討で特筆すべきなのは、責任部位における、石灰化が血管内腔に占める角度が、その前後の非責任部位と比べて有意に少なかった(責任部位 vs. 非責任部位 (proximal,distal); 89°vs. 206°vs. 240°, Figure 3)。以上の事から、Calcified Noduleは比較的冠動脈の動きが多い右冠動脈のmidの周囲に硬い石灰化で囲まれている部位で生じることが考えられた。また脂質成分から硬い石灰化に変化しようとしている段階において、まだ比較的柔らかい石灰化の部分が周囲のストレス、冠動脈の動きのストレスにより最終的に割れてしまい、その割れたものが血管内皮細胞を含む内膜を突き破って血管内腔に飛び出し、同部位に血栓が付着することでCalcified Noduleが形成されると示唆された(Figure 4)。

 ここで少し脱線するが、石灰化の成り立ちについて現時点で石灰化を研究する研究者の中で、ある程度コンセンサスを得られている仮説について紹介したい。その仮説では、石灰化は1. 血管平滑筋細胞がアポトーシスを起こしたもの、そして、2. 脂質成分が石灰化したもの、以上合計2つの全く異なった機序から形成されると考えられている。我々の考えでは、脂質成分が石灰化したものに関しては、時間を経るごとに脂質成分が少しずつ硬くなってCollagenが中に入り込む事で脂質成分の石灰化が完了すると考えている。すなわち、Pico-siriusred染色を用いて染色すれば、ある程度石灰化の硬さが病理学的に鑑別できるのではないかと考えている。ここで今回のCalcified Noduleの責任血管と非責任血管を比べてみると、Pico-sirius red染色で染色される、すなわちCollagenが入り込んで比較的硬いと考えられる部分が、責任血管を有する血管において有意に少なかった事から、Calcified Noduleが比較的柔らかい石灰化の部分が破れてしまって血管内腔に飛び出したと言う機序が考えられる。

 それでは、責任血管の中で、実際にCalcified Noduleを起こした責任部位と非責任部位はどのように違うのであろうか。責任血管に関しては、3mmごとにより細かく冠動脈を輪切りにして、責任部位とその前後、proximalとdistal の非責任部位の部分の違いを検討した。結果としては、責任部位は、その前後の非責任部位と比べてPico-sirius red染色陽性の、硬い石灰化の割合が有意に少ないと言う結果であった(Figure 2)。またこの検討で特筆すべきなのは、責任部位における、石灰化が血管内腔に占める角度が、その前後の非責任部位と比べて有意に少なかった(責任部位 vs. 非責任部位 (proximal,distal); 89°vs. 206°vs. 240°, Figure 3)。以上の事から、Calcified Noduleは比較的冠動脈の動きが多い右冠動脈のmidの周囲に硬い石灰化で囲まれている部位で生じることが考えられた。また脂質成分から硬い石灰化に変化しようとしている段階において、まだ比較的柔らかい石灰化の部分が周囲のストレス、冠動脈の動きのストレスにより最終的に割れてしまい、その割れたものが血管内皮細胞を含む内膜を突き破って血管内腔に飛び出し、同部位に血栓が付着することでCalcified Noduleが形成されると示唆された(Figure 4)。

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論文ポイント

  • Calcified Noduleは比較的冠動脈の動きが多い右冠動脈のmidで、周囲に硬い石灰化で囲まれている部位で発生する事が考えられ、石灰化部周囲のストレス、冠動脈の動きのストレスによる破断が起因していると示唆された。
  • 血管内腔に突出したCalcified Noduleは、線維性被膜の破壊と血栓症を促進し、急性冠症候群や心臓突然死に繋がる可能性がある。

 

引用文献
Torii S, Sato Y, Otsuka F, Kolodgie FD, et al. Eruptive Calcified Nodules as a Potential Mechanism of Acute Coronary Thrombosis and Sudden Death. Eruptive Calcified Nodules as a Potential Mechanism of AcuteCoronary Thrombosis and Sudden Death. J Am Coll Cardiol 2021;77:1599–611

 

 

承認番号・販売名

SYNERGY™ XD
販売名 : シナジー ステントシステム
医療機器承認番号 : 22700BZX00372000