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アーティクルサマリー

BSCCI vol.4

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急性冠症候群患者に対する
第2、3世代薬剤溶出性ステント留置後慢性期の
血管内視鏡所見の比較検討

血管内視鏡所見と血小板凝集能検査からの考察

 

近畿大学病院
循環器内科

上野 雅史 先生

背景

 薬剤溶出性ステント(DES)の登場によって、ベアメタルステント(BMS)時代と比較して明らかに新生内膜抑制により、再狭窄率を低下させた1。しかしながら、初期の第1世代DES(DP-SES、Taxus)はBMSと比較してむしろステント血栓症や1年以降の標的病変再血行再建術(TLR)率が増加するという課題が報告された2。その原因としては、ポリマーコーティングへの過敏性反応により血管壁に炎症が生じ、その結果としてステントの周りに破綻しやすいプラークが形成され、これが遅発性ステント血栓症に繋がると考えられた3

 そこでそれらの問題を解決すべく、ステントのプラットフォームの改善、コーティングの改善、薬剤量の減少の3つを軸にステントの開発が進められた。第2世代DES(DP-EES)では具体的にポリマーをフルオロポリマーでコーティングし、血栓付着を抑制する改良がなされ、そのことでBMSよりもステント血栓症が少ないことが報告された4。さらに第3世代DES(SYNERGY)では、さらにステントを薄くし、ステントと血液の間の抵抗を減らし、血栓症リスクを低下させるための改良、生体吸収性ポリマーを血管の壁側に接する部分にのみ塗布し、ステント内の内皮化を促進させ、ポリマーの残存による血管内炎症を減少させるための改良が加えられた。

 今回我々の検討では第2世代DES(DP-EES)から第3世代DES(SYNERGY)へのそれらの改良点が急性冠症候群の責任病変に留置したステント部で、実際どのように修復過程に影響しているかを血管内視鏡という直接血管内を観察できるイメージングデバイスを使用して比較検討することを目的とした。また血小板凝集能検査を行うことで、実際血栓が存在する症例の抗血小板薬の反応性との関係性に関しても追加検討した5

試験デザイン

対象患者:
 急性冠症候群に対して第2世代DES(DP-EES)と第3世代DES(SYNERGY)を留置し、抗血小板薬2剤併用療法中の連続100症例(各50症例ずつ)を対象症例とした。

 それら対象症例でステント留置後約1年の慢性期に血管内視鏡と血小板凝集能検査を下記の項目について評価した。

方法:
①血管内視鏡での評価

血管内視鏡でステント留置部を観察し、下記の項目をステント別に比較検討した。ステント内の最大と最小、大部分を占める新生内膜の被覆度(NIC grade 0~3)、新生内膜の色調(YC grade 0~3)、血栓の有無など(図1)。
②血小板凝集能検査での評価
光透過凝集測定法(LTA)でADP、Collagenをアゴニストとして血小板凝集能の測定をした。P2Y12受容体阻害薬の低反応性(high on-treatment platelet reactivity: HPR)はADP 20μmol/Lを負荷時の最大凝集能が50%以上残存している症例と定義した。

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結果と考察

DP-EESとSYNERGYを前向きに各50症例ずつの連続計100例を登録した。ステントサイズなども含めて両群の患者背景は概ね同様であった。

①血管内視鏡所見:
 ステント内の最大、最小の新生内膜被覆度はSYNERGYで有意に高値であった。また大部分を占める新生内膜の被覆度(Dominant NIC grade)もDP-EESではGrade1であったのに対して、SYNERGYでは有意に高値でGrade2、3が大部分を占める結果であった(図2)。

 新生内膜の色調に関しては、DP-EESでは黄色調を示す症例が多かったのに対してSYNERGYでは有意に白色調を示す症例が多かった(図3A)。また、ステント内血栓に関しては、SYNERGYではDP-EESと比べて少ない傾向にあった(図3B)。

②血小板凝集能とステント内血栓との関係
 ステント内に血栓を認めた群では、血栓を認めなかった群と比較して血小板凝集能は有意に高値で(図3C)、抗血小板薬の低反応性の割合も有意に高率であった(図3D)。

 これらの結果を基に、ステント内血栓の存在に寄与する因子に対する多変量解析を行うと、ステントストラットの露出(odds:5.77[1.53-27.86]、P=0.03)、抗血小板薬の低反応性(odds:14.52[1.53-137.96]、P=0.02)、女性(odds:5.01[1.09-22.98]、P=0.04)が独立した寄与因子であった。またステント内血栓を認めた症例の大部分は、ステントストラットの露出かつ抗血小板薬の低反応性を認める症例で、両方の因子を認めない症例に関しては血栓の存在は認めない結果であり、ステントストラットの良好な被覆と、抗血小板薬の有効性の両方がステント内血栓の抑制にとって重要である結果であった(図4)。

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 今回の我々の検討で、SYNERGYステントはステントデザイン(ステントストラット片面のみへの薬剤塗装、生体吸収性ポリマー)などによって、良好なステントストラットの内膜被覆を示し、ステント内新生内膜は白色調を示すものが多いことが血管内視鏡から確認できた。過去に報告されているDESNOTEstudyなどでも黄色調の内膜を認めた症例では長期的な心血管イベントが多いことが示されており6、それらの原因としてはNeoatherosclerosisが関与していると考えられる。今回の血管内視鏡から見たSYNERGYステントの良好な修復過程は、SYNERGYステントの短期的、長期的なステント血栓症や1年以降のTLRが良好な臨床成績であることをサポートする結果であるかもしれない。
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その他

 これまで当院での急性冠症候群患者に対するBMS、第1、2、3世代DESを留置した計272例の慢性期の血管内視鏡所見の比較を追記しておく(図5)。第3世代DESは血管内視鏡所見はBMSに近い内膜被覆度であり、内膜の色調、血栓の存在に関してはBMSよりもむしろ白色調を示す症例が多く、血栓の存在に関しても少ない結果であった。
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References

  1. Kastrati A, Mehilli J, Pache J, Kaiser C, Valgimigli M, Kelbaek H, et al. Analysis of 14 trials comparing sirolimus-eluting stents with bare-metal stents. N Engl J Med 2007; 356: 1030–1039.
  2. Daemen J, Wenaweser P, Tsuchida K, Abrecht L, Vaina S, Morger C, et al. Early and late coronary stent thrombosis of sirolimus-eluting and paclitaxel-eluting stents in routine clinicalpractice: Data from a large two-institutional cohort study. Lancet 2007; 369: 667–678.
  3. Virmani R, Guagliumi G, Farb A, Musumeci G, Grieco N, Motta T, et al. Localized hypersensitivity and late coronary thrombosis secondary to a sirolimus-eluting stent: Should we be cautious? Circulation2004; 109: 701–705.
  4. Sabate M et al. Everolimus-eluting stent versus baremetal stent in ST-segment elevation myocardial infarction (EXAMINATION): 1 year results of a randomized controlled trial.Lancet. 2012 Oct 27; 380(9852):1482- 1490.
  5. Matsuura T, Ueno M, Watanabe H, Yasuda M, Takase T, Nakamura T, et al. Impact of Neointimal Condition and Platelet Reactivity on Intrastent Thrombus at Long-Term Follow-up After 2nd- and 3rd-GenerationDrug-Eluting Stent Implantation - Insights From a Coronary Angioscopy and Pharmacodynamic Study
  6. Ueda Y, Matsuo K, Nishimoto Y, Sugihara R, Hirata A, Nemoto T, Okada M, Murakami A, Kashiwase K, Kodama K. In-Stent Yellow Plaque at 1 Year After Implantation Is Associated With Future Event of VeryLate Stent Failure:

 

 

承認番号・販売名

SYNERGY™ XD
販売名 : シナジー ステントシステム
医療機器承認番号 : 22700BZX00372000