アーティクルサマリー
BSCCI vol.11
ヒトにおける新世代DES留置後の
早期血管反応の病理学的検討
~生体吸収性ポリマーDESと耐久性ポリマーDESの比較~
背景
方法
結果
ステント留置期間は両群で同等で(中央値; DP-DES=20日vs. BP-DES=17日; p=0.88)、ACSの責任病変に対するPCIの割合にも差はなく(DP-DES=58% vs. BP-DES=79%; p=0.41)、その他の病変性状に関しても両群間に差は見られなかった。両群とも大多数のストラットにフィブリン沈着が見られ(中央値; DP-DES=88% vs. BP-DES=96%;p=0.37)、炎症の程度は両群とも非常に軽度で差は見られなかった(炎症スコア[0-4]の中央値; DP-DES=0.07 vs.BP-DES=0; p=0.95)。
合計2022個のストラット(DP-DES=1297、BP-DES=725)が病理学的に評価された。DP-DES、BP-DESともに留置後5日目には、局所的な単層の内皮細胞による被覆(grade 2)が確認された(図3)。留置後の超早期(1ヶ月以内)では、両群とも大多数のストラットがgrade 0または1であり、留置期間が長くなるにつれgrade 2や3の頻度の増加が見られた(図3)。ストラット被覆度の各gradeの頻度は、特にgrade 2で両群間の差が大きく、DP-DESよりもBP-DESの方がgrade 2の頻度が高かった(図4A)。マルチレベル混合効果順序付きロジスティック回帰分析の結果、BP-DESはDP-DESに比べてストラット被覆のgradeが有意に高いことが示された(オッズ比: 3.64、95%信頼区間: 1.37-9.67; p=0.009)(図4B)。
各ストラット単位で評価したストラット背後の組織性状は、両群ともに80%以上が線維性組織であり、次いで石灰化、壊死性コア、ステント不完全圧着の順であった。それぞれの背景組織性状別にストラット被覆度を評価すると、背景組織が壊死性コアの場合、組織のprotrusionを反映してgrade 0が少なくgrade 1が多かったが、grade 2の頻度に差が見られ、BP-DESの方がDP-DESよりもgrade 2の頻度が高かった(図4C)。一方、背景組織が石灰化やステント不完全圧着の場合は、grade 2や3は両群ともに非常に少なかった。マルチレベル混合効果順序付きロジスティック回帰分析による両群間のストラット被覆度の比較を、ステント留置期間と背景組織性状で調整しても、BP-DESの方が有意にストラット被覆のgradeが高いという結果であった(オッズ比: 2.74、95%信頼区間: 1.10-6.80; p=0.030)(図4B)。
ステント留置後の時間経過に伴う血管治癒反応の推移は、留置期間で層別化されたストラット被覆度(grade 0~3)の予測確率として評価された。その結果、BP-DESはDP-DESよりも早期から血管治癒反応が進むことが示された(図5)。ステント留置30日後の被覆度grade 2の予測確率は、DP-DES=15.0%、BP-DES=23.3% で、grade 3 の予測確率はDP-DES= 2.7%、BP-DES= 5.7%であり、留置30日後のgrade 2および3を合わせた予測確率は両ステントともに低値であった(DP-DES=17.7%、BP-DES=29.0%)。一方、留置90日後における被覆度grade 2および3の予測確率は、両ステントともに大幅な上昇を示した(DP-DES= 76.1%、BP-DES=85.9%)(図5)。
考察
これまでのいくつかの臨床研究では、OCTによって評価された新世代DES留置後早期のストラット被覆度が報告されているが、その数値には大きなバラつきがある。また、OCTの解像度では、単層の内皮細胞を同定することは困難であり、さらに血栓・フィブリン・protrusionした壊死性コアなどの組織と平滑筋細胞を伴うhealthyなストラット被覆とを区別することも難しいという限界もある。ウサギやブタの動物実験における病理学的検討では、複数の研究でBP-DES の方がDP-DESよりも早期から良好な血管治癒反応を示すことが示唆されている。しかし、動物における血管治癒反応の時間経過は、石灰化や脂質を多く含むヒトの動脈硬化病変における反応とは大きく異なるため、動物実験の結果を直ちにヒトに外挿することは困難である。短期DAPTの流れが進む一方で、実際にヒトの生体内で新世代DES留置後早期に起こっている血管反応の詳細は、これまで十分に解明されてこなかった。
今回の研究によって示されたBP-DESにおける早期血管治癒反応は、ポリマーの生体吸収が完了する以前のものであることから、生体吸収性ポリマー自体が早期の血管治癒に関与しているとは考え難い。BP-DESにおける片側の(abluminal)ポリマーコーティングや、薄いストラット厚などが、より早期からの血管治癒反応に寄与している可能性がある。ストラットの被覆度は、最も強力なステント血栓症の関連因子であり、早期の血管治癒反応はステント血栓症のリスク低下に寄与することが期待される。ただ、新世代DES留置後30日のストラット被覆度は、grade 2を含めたとしても17~29%と不十分なものであり、超短期DAPTの安全性は血管治癒反応の観点からのみでは説明困難と思われる。実臨床では、個々の症例における出血リスク・血栓リスクを勘案して、DAPT期間を決定することが妥当と考えられる。本研究はDES留置後90日未満という早期に焦点を当てたものであり、より早期に得られる血管治癒が、将来の新生動脈硬化(neoatherosclerosis)の発生抑制を含めた長期的なベネフィットをもたらすのかは、今後の検討課題である。
結論
論文ポイント
- ヒト剖検例での病理学的検討により、新世代DES留置後の再内皮化は数日で始まっており、平滑筋細胞浸潤を伴う血管治癒反応はDP-DESよりもBP-DESの方が早いことが示された。
- 新世代DES留置30日後の再内皮化の予測確率は20~30%程度に留まっており、90日後には80~90%程度へと大幅な上昇が見られた。
- 早期血管治癒がもたらす臨床上のベネフィットに期待が持たれる一方、超短期DAPTの安全性は血管治癒反応のみでは説明困難と考えられ、個々の症例においてリスク・ベネフィットを勘案した上でDAPT期間を決定することが重要と考えられる。
承認番号・販売名
医療機器承認番号 : 22700BZX00372000