クリニカルインフォメーション

アーティクルサマリー

BSCCI vol.9

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ST上昇型急性心筋梗塞に対する2種類の薬剤溶出ステント
による治療後早期および慢性期の血管反応の比較:
生体吸収性ポリマーステントと耐久性ポリマーステントの
無作為化比較試験1)

 

神戸大学医学部附属病院
循環器内科

大竹 寛雅 先生

背景

 STEMI 患者を対象としたEXAMINATION 試験2)では、12ヵ月時点での明確なステント血栓症の発生率は、ベアメタルステントよりも耐久性ポリマーを使用した第二世代薬剤溶出ステント(第二世代 DES)の方が有意に低く、第二世代DES留置後の2週間以内にステント内血栓症が大幅に減少したことが確認された。さらに光干渉断層法(OCT)による解析3)では第二世代DESが、STEMI責任病変でのステント留置後の第一世代DESよりも中期の動脈治癒が優れていることを示した。これらの結果は、STEMIにおいて第二世代DESがより安全なステントであることを示唆する。

 血管壁側のみに生体吸収性ポリマーを使用した第三世代薬剤溶出型ステント(第三世代DES)は、その薄い生体吸収性ポリマーを介して、第二世代DESと同等の薬剤を送達することができる。第三世代DESのコーティングは、薬剤溶出が終わると短期間でポリマーが完全に吸収されるため、第二世代DESに比べてポリマーの曝露量が大幅に少なく、組織とポリマーの接触面積も減少する。そのため、炎症や血栓の出現が促進されるという耐久性ポリマーの欠点が克服され、長期的なステント関連有害事象が減少する可能性がある。一方で、生体適合性耐久性ポリマーのコーティングは、ベアメタルストラットを覆うことで血栓に対する抵抗性をもたらす可能性が見られるが、特にST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)の責任病変の治療の場合、血管壁側のみコーティングされた生体吸収性ポリマーだけで十分に早期および中期のステント不全を防ぐことができるかは不明である。

 今回我々は、STEMI責任病変に第三世代DESまたは第二世代DESを留置し、早期および中期の血管治癒反応を、フーリエドメイン光干渉断層法(FD-OCT)を用いて比較検討した。

試験デザイン

対象患者:
 本試験は前向き、多施設共同、無作為化、非劣性試験であり、STEMIの新規冠動脈病変に対してDESによる経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行した20~85歳の成人患者を対象とした。病変は第二世代DESまたは第三世代DESのいずれかによって治療された。

方法:
① 血管造影とFD-OCT解析
 症状の有無にかかわらず、冠動脈造影とFD-OCT解析を、PCI直後と2週間後および12ヵ月後のフォローアップ時に実施した。
 FD-OCTの断面画像を標準的な方法で定量的に解析した。PCI 直後にストラットが 完全に組織に覆われた状態をembeddedストラット、2週間後または12ヵ月後に組織に覆われた状態をcoveredストラット、覆われていない状態をuncovered ストラットと定義した。ステント内組織 は、smooth protrusion、disrupted fibrous tissue protrusion、abnormal intra-stent tissueに分類した(図1A、1B、1C)。血栓は不規則な組織逸脱と完全に区別できないため、不規則な組織逸脱と血栓はすべてabnormal intra-stent tissueとした。ステント内組織の分布パターン評価については、ステント内組織不均一スコア(IUS)を算出した。major evaginationとperi-strut low intensity area(PLIA)スコアも評価した(図1D、1E)。

② 評価項目
 主要評価項目は、PCIから2週間後のFD-OCTで評価した平均ストラット被覆率とした。副次的評価項目は、PCIから2週間後および12ヵ月後のFD-OCTで評価した最小内腔面積、平均ステント面積、uncoveredストラットの割合、ステント内異常組織の頻度、マルアポジションのストラットの割合、などとした。

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結果

① 患者背景
 2018年11月14日~2019年11月24日に登録されたSTEMI患者120例を、第三世代DES群(60例)または第二世代DES群(60例)に無作為に割り付けた(図2)。ベースラインの患者背景、病変背景、手技背景に両群間で差はなかった。

② PCI直後および2週間後のOCT所見
 主要評価項目である2週間後の平均ストラット被覆率は、第三世代 DES 群 が71.4%(95%CI 67.3~75.4)、第二世代DES群が72.3%(95%CI 68.5~76.2)で、その差は-0.94(90%CI -5.62~3.74、P=0.0765)で あり、第三世代DES群の第二世代DES群に対する非劣性は認められなかった(図3)。優越性評価では第三世代DES群の第二世代DES群に対する有意な差は認められなかった(図4A)。
 PCI直後の平均ステント面積と最小ステント面積は両群間で 同等 で あり、組織 smooth protrusion、disrupted fibrous tissue protrusion、abnormal intra-stent tissueの頻度も同等であった。PCI直後の平均IUSは第三世代DES群で有意に低く(P=0.001)、第三世代DES群ではステント内組織の逸脱がより均一であることが示唆された。
 PCI直後は、第三世代DES群で術後のステント内の組織量が大きかった(18.6mm3 vs 13.6mm3: P=0.01)。ただし、2週間後には両群とも低下が認められ、両群間の有意差は消失した(12.9mm3 vs 11.6mm3: P=0.21)。ステント内の新生内膜面積についても同様であった(図4B)。
 PCI直後および2週間後のマルアポジション容積は術後には第三世代DES群が有意に小さく、2週間後もその傾向が維持されていた(図4C)。また、第三世代DES群では2週間後のmajor evaginationが有意に少なかった(P=0.04)。

③12ヵ月後の冠動脈造影およびOCT所見
 12ヵ月後、第三世代DES群は第二世代DES群に比べて平均のストラット被覆率が有意に高かった(図5A)。ステント内新生内膜面積およびステント内組織面積の割合は第二世代DES群より第三世代DES群で有意に大きかった(図5B)。しかし、平均IUSは第三世代DES群で有意に小さく(P<0.001)、12ヵ月後の新生内膜被覆率はより均一であることが示唆された。
 第三世代DES群では第二世代DES群に比べてマルアポジション容積が有意に小さかった(図5C)。主要冠動脈外転およびPLIAの発生頻度は、両群間で有意差はなかった(P=0.43)。

④12ヵ月後の臨床成績
12ヵ月後までに心臓死は発生しなかった。12ヵ月後のフォローアップ時点における標的病変血行再建術(TLR)発生率は両群間で同等であった。12ヵ月後に予定されていた血管造影後のTLR発生率は第三世代DES群が第二世代DES群より高かったが、TLR症例はいずれも無症候性であった。

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考察

 本試験では、2週間後のストラット被覆率に関して第三世代DES群の第二世代DES群に対する非劣性は立証されなかった。その原因として、適時の患者登録やFD-OCT解析などの実施可能性の理由からサンプルサイズが限られていたことと、症例数設定の仮説の段階では標準偏差を8%に設定していたが、実際の標準偏差が第三世代DES群では13.4%、第二世代DES群では12.6%と想定の1.5倍のばらつきを示したことが影響していると考えられた。
 本研究では、不規則な組織逸脱や血栓を含むabnormal intra-stent tissueの頻度は、PCI後または2週間フォローアップにおいて両群間で統計的に差がなかった。さらに、第三世代DES群ではPCI後のOCT画像でより大きなステント内組織の逸脱が見られた。これは第二世代DESよりも第三世代DESで、より薄いストラットとより大きなセルエリアおよび2リンクデザインによりストラット内への良好な組織形成が原因と考 えられるか もしれ な い。2週間後には両群ともAbnormal intra-stent tissueの有意な低下が認められ、両群間の有意差は消失した。したがって、我々のデータは、血栓が豊富なSTEMI病変に第三世代DESが留置された場合でも、血管壁側の生体吸収性ポリマーコーティングが血栓付着の抑制に十分に効果的であることを示唆している。
 12ヵ月後では、第三世代DES群は第二世代DES群に比べて、ストラット被覆率およびストラット圧着率が有意に良好であった。第二世代DESは、過敏症を誘発し、炎症反応を悪化させ、ステント内の内皮化を損なうか遅らせることがあり、その結果、中期フォローアップ中にステント血栓症および再狭窄のリスクが高まる可能性がある。第三世代DESは、薄い生分解性ポリマーを介して、臨床的に有効な第二世代DESと同等の薬剤を提供する。
 ポリマーをステントの血管壁側に限定すると、内腔側がベアメタルステントとなり、ポリマーの総負荷が軽減され、ステント留置後のポリマーの露出がなくなる。そのため第三世代DESは血管病変の治癒が遅れるSTEMI病変には有効と考えられる。

結論

STEMI責任病変に留置してから2週間後のストラット被覆率は第三世代DESと第二世代DESで同程度であったが、サンプル数が不十分であったため、非劣性を証明することはできなかった。FD-OCTによる12ヵ月間のフォローアップでは、第三世代DESで治療した血管病変の治癒状態は有意に良好であり、第三世代DESは安全性の高いステントであることが示唆された。

論文ポイント

  • PCI直後および2週間後の両群間のマルアポジションのストラットや組織逸脱の違いは、ステントのデザインに関連している可能性が考えられた。
  • 血栓が豊富なSTEMI病変に第三世代DESが留置された場合でも、血管壁側の生体吸収性ポリマーコーティング
    が血栓付着の抑制に十分に効果的であることを示唆された。
  •  FD-OCTによる12カ月追跡において第三世代DESで治療した病変の治癒状態が有意に良好であり、第三世代
    DESが安全性の高いステントであることが示唆された。

 

 

承認番号・販売名

販売名 : シナジー ステントシステム
医療機器承認番号 : 22700BZX00372000