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アーティクルサマリー

BSCCI vol.6

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冠動脈石灰化プラークの形態が
薬剤溶出ステント留置後の心血管イベントに与える影響

 

奈良県立医科大学
循環器内科

渡邉 真言 先生

背景

 薬剤溶出ステント(DES)の登場によって、ベアメタルステント時代と比較し再狭窄率は低下しPCI後の臨床転帰は向上してきた。しかしながら、高度石灰化病変においてはデバイスの通過が困難なため治療に難渋したり、ステントの拡張が不良なため再狭窄やステント血栓症を引き起こしたりする可能性があり治療成績は良好とはいえない。

 冠動脈石灰化プラークの形態を評価するうえで有用なのが血管内超音波(IVUS)や光干渉断層法(OCT)に代表される血管内イメージングである。なかでもOCTは、血管内超音波(IVUS)の約10倍に達する高い解像度であり、石灰化は境界明瞭な不均一な低輝度シグナル領域として描出される。OCTで用いる近赤外線は石灰化を通過するため、石灰化プラークの微細な構造を詳細に分析することが可能である。

 最近のOCT研究では石灰化プラークがCalcified nodule(CN)、Calcified protrusion(CP)、およびSuperficialcalcific sheet(SC)の3つの形態に分類され1)、ステント留置後に異なるOCT所見(ステントエッジの解離、ステントの圧着不良、およびステント拡張不全)を示すことが報告されている2)。

 今回我々は中等度から高度石灰化病変に対してOCTガイドでDESが留置された患者を対象に冠動脈石灰化プラークの形態がDES留置後の長期臨床転帰に与える影響について検討した。

試験デザイン

対象患者:
 2014年1月から2016年12月までに奈良県立医科大学附属病院で透視画像上中等度から高度石灰化病変に対してOCTガイドでPCIを実施した274例中、第2もしくは第3世代DESが留置され、ステント留置前に実施されたOCTでPCI責任病変に石灰化プラークを認めた251例(283病変)を解析の対象とした。透視画像における冠動脈石灰化の重症度は動画で冠動脈に石灰化を認識できる病変を中等度、静止画でも冠動脈に石灰化を認識できる病変を重度として定義した。

方法:
①PCI前のOCT評価
 PCI責任病変におけるOCTの解析では、図1に示すように石灰化プラークを3群に分類した。CNは集簇した小結節状の石灰化が内腔へ突出し、表面が不整な石灰化プラーク(図1A)、CPは石灰化が内腔へ突出し、表面が平滑で、CNを含まない石灰化プラーク(図1B)、SCは石灰化の内腔への突出像を認めないCNおよびCPを含まない石灰化プラーク(図1C,D)として定義した。また、石灰化プラークの定量評価として病変内におけるMaximum calcium arc(図1E)、Maximumcalcium thickness(図1F)とCalcium lengthを測定した。

②PCI後のOCT評価
 PCI後にOCTを実施し、参照内腔面積、最小ステント面積(MSA)、ステントエッジの解離、およびステントの血管壁への圧着不良を評価した。

③臨床転帰の評価
 主要エンドポイントは心臓死、心筋梗塞およびTLRの複合エンドポイント(MACE)として定義し、最終観察日におけるエンドポイントの有無を評価した。

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結果

①臨床背景および病変背景
 解析の対象となった251例中、25例(10.0%)/28病変(9.9%)がCN群、69例(27.5%)/76病変(26.8%)がCP群、157例(62.5%)/179病変(63.3%)がSC群に分類された。臨床背景では維持透析の頻度が3群間で有意差を認め、CN群で最も多く、病変背景では、ACSの責任病変が3群間で有意差を認め、SC群で最も多かった(表1)。責任冠動脈も3群間で有意差を認め、RCAおよびLMTでCN群の頻度が高いのに対し、LADでCPおよびSC群の頻度が高かった。透視画像上の重度石灰化病変およびロータブレーターの使用頻度はCN群、CP群、SC群の順で多く、有意差を認めた。使用したステントのサイズもCN群で有意に大きい径のステントを使用していた。

②OCT所見
 Maximum calcium arc、Maximum calciumthickness、およびCalcium lengthは3群間で有意差を認め、CN群、CP群、SC群の順で石灰化の量が多かった。PCI後のOCT所見ではMSAに有意差はなかったもののCN群で大きい傾向にあったが、Stent expansion ratio およびStent under expansion の頻度に有意差を認めなかった。ステントエッジの解離およびステント圧着不良の頻度はCN群で最も多かった(表2)。

③臨床転帰の比較
 Kaplan-Meier生存曲線ではMACE、心筋梗塞、およびTLRが3群間で有意差を認め、CN群で最もそれらの頻度が高く、Post-hoc 解析でMACEの発生頻度はCN群の方がCP群(P=0.0059)およびSC群(P=0.0132)と比較し有意に高かった。CPとSCではMACEの頻度に有意差を認めなかった(図2)。MACE の予測因子を同定するためCoxproportional hazard解析を行ったところ単変量解析ではCN、維持透析、eGFRおよびLDLコレステロール高値がMACEと有意な関連を認めたが、CN以外のOCT所見(石灰化の角度、厚さ、長さ、Minimum stent area, Stentunder expansion、Stent edge dissection)に関連を認めなかった。CN、維持透析、およびLDLコレステロールを調整因子とした多変量解析ではCNはMACEの独立した予測因子であることが分かった(HR 4.41, 95% CI 1.63-10.8,P=0.0047)。

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考察

 中等度から高度石灰化病変を対象とした我々の検討ではCNがCPおよびSCと比較しDES留置後の心血管イベント発症に有意に関連しており、CNは心血管イベントの独立した予測因子であることが確認された。CNとCPは石灰化が血管内腔を突出しているという形態から混同されやすく、解像度の限界からIVUSでは両者を区別することは困難な場合がある。本研究では解像度の高いOCTを使用しCNとCPを区別したがCPが心血管イベントに与える影響は少なかった。今回の検討ではCNで心血管イベントが多かった要因としてTLRが主に関与していた。IVUSを用いたMorofujiらの検討でもCN病変はTLRおよびステント血栓症と有意に関連があったことを報告している3)。CN病変でTLRが多い原因については明らかにされていないが、CNはヒンジモーションの部位で発生しやすいことからステントフラクチャーが原因となっている可能性4)やステント留置後に内腔へ突出したCNが再狭窄やステント血栓症を惹起している可能性が考えられている5)。

 今回の検討でもCNはDES留置後のstent failure の原因となっている可能性が示唆されたが、この結果は、CN病変に対して積極的にロータブレーターを施行し、径が大きいステントを留置し、かつ他の群と比べて大きいMSAを獲得しているにもかかわらず得られた結果であった。現在、CN病変の臨床転帰を改善させる有効な治療方法は確立されていない。CN病変に対する有効なPCIを開発することは石灰化病変に対する治療成績向上につながると考えられる。

論文ポイント

石灰化結節(calcified nodule)はOCTガイドでDESが留置された患者において心血管イベントの上昇と関連していた。

 

References

  1. Sugiyama T, Yamamoto E, Fracassi F, Lee H, Yonetsu T, Kakuta T, et al. Calcified plaques in patients with acute coronary syndromes. JACC Cardiovasc Interv 2019; 12: 531–540.
  2. Nakajima A, Araki M, Kurihara O, Minami Y, Soeda T, Yonetsu T, et al. Comparison of post-stent optical coherence tomography findings among three subtypes of calcified culprit plaques in patients with acutecoronary syndrome. Catheter Cardiovasc Interv 2021; 97: 634–645.
  3. Morofuji T, Kuramitsu S, Shinozaki T, Jinnouchi H, Sonoda S, Domei T, et al. Clinical impact of calcified nodule in patients with heavily calcified lesions requiring rotational atherectomy. Catheter CardiovascInterv 2021; 97: 10–19.
  4. Lee T, Mintz GS, Matsumura M, Zhang W, Cao Y, Usui E, et al. Prevalence, predictors, and clinical presentation of a calcied nodule as assessed by optical coherence tomography. JACC Cardiovasc Imaging2017; 10: 883–891.
  5. Mori H, Finn AV, Atkinson JB, Lutter C, Narula J, Virmani R. Calcified nodule: An early and late cause of in-stent failure. JACC Cardiovasc Interv 2016; 9: e125–e126.

 

 

承認番号・販売名

販売名 : ロータブレーター
医療機器承認番号 : 20900BZY00356000

販売名 : ロータブレーターPRO
医療機器承認番号 : 23000BZX00060000